前世の約束〜神の目を持つ敏腕社長は、純白オーラの秘書を慈しむ
社長室に戻ると、秘書室から綾奈が慌てて出て来た。
「忘れ物ですか?」
「いや、今から出掛ける。帰りは遅くなるから、時間になったら気を付けて帰るんだよ」
「はい…」

綾奈は俺をジッと見つめた後、俺の頬を触った。
「怖い顔…してたか?」
綾奈は首を横に振り、笑顔を見せた。
「凜々しい社長も大好きです…あっ、すみません!社長が大変な時に、不謹慎な事を…優しい社長も凜とした社長も素敵です」
「綾奈…」
頬に当てた手を握って、綾奈を抱きしめた。

今、キスをすれば、何もかも忘れて…
このまま抱いてしまう…

「綾奈、人事部長の仕事をサポートしてくれないか?」
「分かりました。嬉しいです。少しでもお役に立てるなら」
「じゃあ、頼んだよ」
体を離し、逃げるように上着と鞄を持って、社長室を出た。

俺が狼狽える姿…
さっきまでの会議室の皆が知ったら、驚くだろうな…

その日の夜は、大木社長と人事、法務の両部長とで、会食をしながら打ち合わせをした。
大木社長は、謙虚な話し方とは違い、炎のように真っ赤な情熱のオーラを纏っていた。
この人を選んで正解だったな…

「宜しくお願いします。大木社長」
「宇河社長とお会い出来たことに、感謝します」

大木社長と別れ、人事部長が近づいて来た。
「社長、星部さんが今日、私のサポートをしてくれたお陰で、仕事がはかどりました」
「急でしたが、大丈夫でしたか?」
「大丈夫も何も、手際がいいし、気遣いだけでなく、知識もあるから、一緒に検討までしてくれまして」
「それは良かったです。大人しい性格だから心配してたけど」
「他の男性社員が、星部さんの周りの空気が澄んでいるというか、穏やかに心地良い空間で…それで」
「それで?」
「癒やされるね、って話をしていました。入社した頃よりも変わりましたね。また、是非来ていただきたいです。あっ、決して不謹慎な気持ちはありませんから…タ、タクシーが来ました!」
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