国宝級オルガニストは初恋の彼女に甘く口づける
「今日、学校は?」
 問われて、律華は口を引き結んだ。
「気にしないで。俺もさぼりだから」
 彼はにこっと笑った。

「パイプオルガンって、定期的に弾いて状態を確認しないといけないんだ。弾きこみっていうんだけどね。さっきはそれをやってたんだ」
「なんだか大変そう」

「パイプオルガンは一度設置したら動かせないし、温度や湿度でも経年でも音が変わってしまう。パイプなんてちょっとした衝撃ですぐへこむし、面倒な楽器だと思うよ」
「でも、音楽はすごく素敵だった」

 彼はにっこりと笑った。
「ありがとう。いろいろあって憂鬱だったけど、元気出て来た」
「どんなことがあったの?」

「クラスメイトにパイプオルガンなんてダサいとかオカマとかかっこつけとか言われてさ。それ以外にもちょっとあって、だからさぼって来ちゃった。ここの神父さんは怒らないから」
「悪口を言われるのって嫌だよね」
 律華はうつむく。

「君もなにか言われたの?」
「……うん」
 律華は話した。

 四月、転校生がやってきた。
 彼女はかわいくて、すぐにクラスになじんだ。
 GWが開けてから、なぜか急にいじめられるようになった。
 理由がわからず、困惑した。反論したらよけいにひどくなった。
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