国宝級オルガニストは初恋の彼女に甘く口づける
 大人が来た。
 律華は体を強張らせた。見つかったらきっと怒られる。
 律華は走り出した。
「待って!」
 少年が止めるのも聞かず、教会から逃げ出した。



 結局、その日は遅刻して学校に行った。家に帰っても鍵がかかっていて入れないから。
 先生から遅刻の理由を聞かれ、おなかが痛くなったからと濁した。

 親にも連絡が行ってしまい、結局はいじめがバレた。
 親たちと先生が話し合いをして、今まで以上にいじめっ子と律華の距離を置くように配慮してもらえた。

 いじめは翌年にクラスが変わるまで続いたが、なんとか耐えて学校に通うことができた。
 逃げたいなら逃げていい。そう言われたから心が軽くなって、明日休んでいいから今日は行こう、そう思えたのだ。

***

「まさかここで会うとは思わなかった」
 彼の声で、律華は我に返った。
「名前、聞いて良い?」
「香椎律華です」
「律華さん。良い名前だ。俺は蘭東奏鳴」
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