国宝級オルガニストは初恋の彼女に甘く口づける
 丼ものがないことに新鮮な気持ちになった。彼が留学していたのはドイツだから、そもそも米が一般的ではない。
 彼からのメッセージは食事の話題が多かった。

 まるでSNSみたい。思ってから、彼のSNSを探してみた。
 すぐに見つかった。
 SNSでも彼は人気だったし、食事の写真が多かった。

 スタッフと撮った写真に蕾羅が映っていて、思わずSNSを閉じた。
 蕾羅は堂々とした美人で、奏鳴と並ぶとお似合いだった。

 引き換え、と律華は自分を思う。地味で目立たない。野暮ったい髪型の鎖骨までの髪、のっぺりした顔。
 流行の服やメイクを試しても似合わなかった。もさっとしてださくて、どうしたら華やかな美人になれるのか、まったくわからなかった。



 土曜日。
 奏鳴に誘われ、律華は出掛けた。
 待ち合わせの駅前に立つ彼は、カジュアルな服装なのに輝いて見えた。
 二人の女性が彼を見て話しあっている。声をかけてみようとか、そんな内容かもしれない。

 律華は怖気付いてしまった。
 自分では彼に恥をかかせてしまうかもしれない。
 立ちすくんでいると、彼が律華に気がついてにっこりと笑って近付いて来た。
「お待たせ」

 律華は思わず笑ってしまった。
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