国宝級オルガニストは初恋の彼女に甘く口づける
「待たせたのは私でしょ?」
「そうだっけ?」
 彼はとぼけて笑顔を見せる。
 それだけで怖気は吹き飛んでしまった。

「今日はよろしく。行きたいところ、いっぱいあるんだ。シンボルの白いタワーに、花が有名なお寺、動物園、それから……」
「そんなに無理ですよ」
「やっぱり?」
 いたずらをみつかったみたいに、彼は笑った。

「おのぼりさんみたい」
「おのぼりさんと変わらないよ。長いこと海外にいたから」
「一番行きたい場所は?」
「君とならどこでも」

 律華は笑った。
「蘭東さん、そんなこと言ってたら勘違いされますよ」
「奏鳴だよ。名前で呼んで。苗字は慣れないから」
 海外が長かったせいだろうか、と律華は思う。
「わかりました、奏鳴さん」

 奏鳴はうれしそうににっこりと笑った。
 笑顔に見ほれながら、律華は悩む。お寺だとお参りのあとにどうしたらいいのかわからなくなりそうだ。同じ理由でタワーも却下。
 動物園なら話の種に困らなさそうだし、近くに商店街がある。
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