国宝級オルガニストは初恋の彼女に甘く口づける
 焼鳥や豆腐サラダ、じゃがバターなどいろいろと注文し、動物園の感想を言いながら食べた。
「会えなかった間のこと、聞きたいな」
 ふいに、奏鳴が言った。

「私なんて普通だよ」
「普通がわからないからさ」
 彼ははにかむように笑った。

 律華は戸惑いながら話した。中学、高校、大学へ進学し、就職活動をしてイベント会社の事務になったことを。
 音楽づけだった彼には律華の平凡な人生のほうが輝いて見えたらしい。

 不思議なものだ、と律華は思う。
 断然彼のほうが輝いているのに。
 音楽の道は一部しかプロになれないと聞いているが、彼はそれを果たしている。夢を叶えたなんて、それだけで羨ましい。

「ドイツって、どんなところ?」
「豚肉料理が多くて、ビールがおいしい」

 律華は思わず笑った。
「また食べ物。普通、文化とか街並みの話とかしない?」
「俺、そんなに食べ物の話してる?」
「いつもだよ」
「でも、美味しいものって人に言いたくならない?」
「なる。不思議だけど」
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