国宝級オルガニストは初恋の彼女に甘く口づける
「きっと原始時代の名残だね。昔って食料の情報が重要だから」
「そこまでさかのぼるの?」
「本能みたいなものじゃん。おいしいってそれだけで幸せ」
 そう言って、彼は焼き鳥を頬張った。

「確かに」
 律華はじゃがバターを口に運んだ。ほくほくしたジャガイモの甘みに、沁み込んだバターの塩味がきいていて、おいしい。

「奏鳴さんの演奏もすごく幸せな気持ちになるよ」
「ほんとに? すごくうれしい!」
 奏鳴は輝くような笑みを浮かべた。
 まぶしくて、律華は思わず目を細める。

「すごく練習したんでしょう?」
「もちろん。だけど、家にはパイプオルガンなんてないから、実機の練習場所を確保するのも大変だった。オルガンによってデザインも形式もパイプの数も鍵盤の段数や数も違うし」

「鍵盤以外にも横にストップとかいうのがあるのよね?」
「使うストップで使うパイプが変わって、音色の風合いが変わるんだよ。フルート風とかバイオリン風とか。組み合わせもできる」

「絶対音感って必要なの?」
「必須ではないよ。ヨーロッパでは絶対音感より相対音感が必要とされてる。オーケストラでは、かな」

「相対音感ってなに?」
「絶対音感だと、ドは絶対にド、なんだよ。相対だと」
 奏鳴はうーんとうなり、それから説明した。
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