国宝級オルガニストは初恋の彼女に甘く口づける
「恋人はいる? フリーなの?」
「いない……けど」
「じゃあ、いいよね」
 言いざま、彼は木の陰に律華を抱き寄せ、唇を奪った。逃げるようにすくむ彼女の舌をすかさずからめとる。

 驚く律華にかまわず、彼は至近距離でまっすぐに見つめてくる。
 どうしたらいいのかわからず、結局、目を閉じた。

 それを了承ととらえたのか、彼は激しく律華を攻め立てる。息継ぎをする間も与えない。
 ん、と喉から声がもれる。そんな声を出したくはないのに、抑えようもなく漏れ出て、アイスクリームのように、たやすくとろりと溶けていく。

 ようやく彼が唇を離したとき、律華は体の力が抜けていた。
 彼の胸にもたれかかり、くすぶるような自身の熱を持て余した。

「私、おかしい」
「それ、俺のせいって思っていいよね?」
 律華は潤んだ瞳を彼に向けた。

「……そうよ」
「ふふっ。うれしい」
 彼がまたキスをしようと顔を傾けたとき。

「奏鳴さん!」
 女性の声がして、二人はそちらを見た。
 目を吊り上げた蕾羅がそこに立っていた。
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