国宝級オルガニストは初恋の彼女に甘く口づける
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翌日、律華はふわふわした気持ちで出勤した。
世界的なオルガニストが恋人になった。
夢なんじゃないか、と何度も疑った。
「おはよう、愛してる」と朝からメッセージが来て、夢じゃなかったと胸が熱くなった。
逃げたかったら逃げてもいい。
彼がそう言ってくれたから、がんばることができた。いつでも逃げていい。だから今はがんばる。そう思えた。本当につらいとき、自分に休憩することを許せた。
グリーンアンバーもまた、彼女の味方だった。
数万年の時を経た石に比べて、人間の一生は短い。だから後悔しないように生きようと思えた。
彼はあのときからずっと律華の心を守ってくれていた。昨夜は愛の告白までされた。
思い出しては幸せを噛み締める。自然と頬が緩み、はっとして顔を引き締めることが何度もあった。
周囲に変に思われないように、律華はがんばって仕事に集中した。
「香椎さん」
呼ばれて振り返ると、営業の男性がいた。
「14時にお客さん来るから、お茶出し頼める?」
「わかりました」
時計を見ると、13時45分だった。