国宝級オルガニストは初恋の彼女に甘く口づける
 夜、スマホがまた震えた。
『大丈夫?』
 一言、それだけだった。

 律華は迷った。
 大丈夫とも言えず、かといって蕾羅の言いなりに「もう会わない」と告げるのもためらわれた。
 結局、おやすみ、とスタンプを送った。
 おやすみ、とすぐに返信が来た。
 律華はスマホをだきしめて俯いた。



 翌朝、なんとも言えない気持ちで出勤した律華は、すぐに課長に呼ばれた。
「これ、本当なの?」
 課長にスマホを見せられ、律華は不安に思いながら見た。

 まとめサイトのようだった。
 内容に、愕然とした。

 律華と奏鳴が映った写真だった。動物園でのものだろう、前を歩く奏鳴に、律華がついていく様子だった。二人とも顔がさらされている。

 国宝級イケメンオルガニストにストーカー! つきまとい迷惑女!
 写真にはそうコメントがついていた。さらに誹謗中傷が続く。
 小学生の頃からの虚言癖、注目を浴びていないといられない自己中!
 勤務先はイベント運営会社。仕事にかこつけてオルガニストに迫る!

 それらの誹謗中傷のあとには、会ったこともない他人からの心無い言葉が続いていた。
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