国宝級オルガニストは初恋の彼女に甘く口づける
 その下に演奏台(コンソール)がある。今日はこのメインコンソールでの演奏だった。リハーサルやコンサートの内容にはよってはステージに演奏台を設置してリモートで演奏する。

 パイプオルガンの特徴の一つに倍音がある、とも書かれていた。この組み合わせで音楽が壮麗になるのだ。
 オルガニストは蘭東奏鳴。このコンサートは彼が専属オルガニストになる就任披露も兼ねているようだった。

 経歴は華々しく、11歳でドイツに音楽留学し、数々のオルガンコンクールで優勝。音楽大学を首席で卒業し、世界的なオーケストラとの共演も多数。
 いいなあ、と羨ましくなった。その経歴を得るためにどれだけの努力の代償を払って来たのだろう。
 自分だってそれなりに努力してきたつもりだが、結局は人並みだから、結果も人並みだ。

 あのときの少年はどうしているだろう、今もパイプオルガンを弾いているだろうか。彼もドイツに行くと言っていた。

 律華は胸元のペンダントを手に取り、見つめる。
 彼がくれたグリーンアンバーだ。ペリドットに似た黄緑色の石。琥珀を熱加工して色を出してはいるが、天然石だと教えられた。
 彼は、律華の生きる重圧を軽くしてくれた。この石と共に。

 会場には徐々に人が増え、ついに開演時間を迎えた。
 ホールが暗くなり、演奏者の奏鳴がタキシードを纏って現れた。
 観客は拍手で彼を迎える。

 彼はお辞儀をしたあと、律華を見た。
 目が合った気がして、ドキッとした。
 彼は泰然と席に座り、鍵盤に手を置く。
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