国宝級オルガニストは初恋の彼女に甘く口づける
お客様が入場しているのに楽器の確認に行くなど、普段ならしない。
入場していた客が、奏鳴の姿にざわつく。
鍵盤に触れる。
音が、なんだか濁って聞こえた。
男性スタッフが早足で奏鳴に寄って来た。
「なにかありましたか?」
「音、おかしくない?」
言って、また鳴らす。
「おかしくないですよ」
スタッフは首をかしげる。奏鳴の発言を、芸術家にありがちな神経質さだと思ったようだった。
「確認しよう」
あと15分で始まる。
律華は気になるが、コンサートを楽しみにしているお客様のためにも、異常があれば処置しなくてはならない。
奏鳴はパイプを確認するために鍵盤の横にある大きなパネルを開けた。
中に入り、梯子を登って二階に行く。
そこには風箱の上に無数の大小のパイプが並んでいた。一番小さなパイプは小指ほどだ。
パイプには異常はなさそうだった。新築のオルガンなので、ほこりなどの異物が原因とも考えにくい。
だが、やはり耳が異音を拾っているように感じる。
三階のパイプにも異常はなかった。音量を調節する扉にも異常はなさそうだ。
その隙間から見える観客席にはオルガンビルダーの雄造が見えた。来てくれたんだ、と少し胸がはずんだ。
律華の姿を探したが、なかった。
入場していた客が、奏鳴の姿にざわつく。
鍵盤に触れる。
音が、なんだか濁って聞こえた。
男性スタッフが早足で奏鳴に寄って来た。
「なにかありましたか?」
「音、おかしくない?」
言って、また鳴らす。
「おかしくないですよ」
スタッフは首をかしげる。奏鳴の発言を、芸術家にありがちな神経質さだと思ったようだった。
「確認しよう」
あと15分で始まる。
律華は気になるが、コンサートを楽しみにしているお客様のためにも、異常があれば処置しなくてはならない。
奏鳴はパイプを確認するために鍵盤の横にある大きなパネルを開けた。
中に入り、梯子を登って二階に行く。
そこには風箱の上に無数の大小のパイプが並んでいた。一番小さなパイプは小指ほどだ。
パイプには異常はなさそうだった。新築のオルガンなので、ほこりなどの異物が原因とも考えにくい。
だが、やはり耳が異音を拾っているように感じる。
三階のパイプにも異常はなかった。音量を調節する扉にも異常はなさそうだ。
その隙間から見える観客席にはオルガンビルダーの雄造が見えた。来てくれたんだ、と少し胸がはずんだ。
律華の姿を探したが、なかった。