国宝級オルガニストは初恋の彼女に甘く口づける
 代わりに見つけた蕾羅に、奏鳴は眉を寄せる。
 奏鳴の違和感が強くなった。
 あんなことがあったのに来るなんて、厚顔にもほどがある。
 今日の不快な胸騒ぎはこのせいか。

 いや、違う。もっとなにか、別のものだ。

「送風機室も見に行こう」
 二人で送風機室に行くと、扉に鍵がかかっていた。
「なんで鍵が?」
 スタッフが戸惑う。
 ここだ、と奏鳴は悟った。

「早く開けて。開演は遅らせて」
 スタッフに言うと、彼は慌てては鍵を取りに戻った。
 ドアを叩くと、中から返答のように叩き返す音が小さく聞こえた。

***

 ドアを叩く音に、律華はハッとした。
 慌ててドアに駆け寄り、叩き返す。
「機械が大変なの!」
 聞こえるかどうかわからないが、叫ぶ。

 しばらくして、扉が開かれた。
「律華さん、どうしてここに」
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