国宝級オルガニストは初恋の彼女に甘く口づける
 彼が手を滑らせると、荘厳な音が響いた。
 鳥肌が立った。
 切ない響きが肌を震わせ、心臓をぎゅっとわしづかみに締め付ける。
 重厚に、もの悲しい。

 演奏者の手が忙しく動き、足元のペダルを踏み、同時にいくつもの音が重なる。
 だが、後半に行くにしたがって、それは開放的に音を広げていく。
 まるで目の前に青空が広がるかのようだ。

 どの曲も感動的で、曲が終わるたびに夢中で拍手をした。
 クラシックなどなにもわからず、パイプオルガンだというだけで聞きに来た。そんな自分でも感動できることがうれしかった。



 だが、その感動は当のオルガニストに抱きしめられて、すべて吹っ飛んだ。
 どうして? なんで?
 頭の中に疑問だけが浮かぶ。

「ごめん、ついうれしくて」
 彼は慌てて律華を離した。
「覚えてない? 小学生のころ、教会でパイプオルガンを一緒に弾いたよ」
「あのときの!?」
 律華は驚いた。

「そう」
 彼はうれしそうに笑う。
 あのときの少年がこんなに立派になってるなんて、思いもしなかった。

「感動の再会かな?」
 年配の男性がからかうように言う。
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