国宝級オルガニストは初恋の彼女に甘く口づける
 奏鳴が跪き、律華に花束を差し出す。スタッフはマイクを彼の口元に向ける。
「律華さん、結婚してください」
「は!?」
 突然のことに、律華は驚いた。

「俺の心には、もうあなたしかいない。一生あなたを愛すると誓います」
 わあああ! と今までにないくらいの歓声とともに拍手が鳴る。

 律華はどう返答したらいいのかわからない。
 彼と恋人になったことすら現実味がなかったのに、いきなり結婚だなんて。

 だけど、と周りを見る。
 ここで断ったら、彼に恥をかかせてしまう。そんなことは絶対にしたくない。

 なにより、自分は彼が好きだ。
 見ると、彼はまっすぐに律華を見つめている。
 迷いのない目に、律華は観念した。

 いつしか観客の拍手は、律華の返事を催促するようにリズムを刻む。
 花束を受け取ると、スタッフのマイクが律華に向かった。拍手が一斉に止み、ホールに静寂が降りた。

「よろしくおねがいします」
 か細く答える声が、ホールに響く。

 一段と大きな歓声がわき、割れんばかりの拍手が響いた。
 おめでとう、の喝采が響く。

 律華は恥ずかしくて花束で顔を隠した。
 その肩を抱き、奏鳴は律華の耳に囁く。
「絶対に幸せにするから」
 律華はさらに照れて、深くうつむいた。

 拍手はなりやむことなく、二人を温かく包み続けた。
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