国宝級オルガニストは初恋の彼女に甘く口づける
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数日後、出勤の最終日。
律華は課長に呼び出された。
会議室に行くと、課長と営業部長がにこにこと律華を出迎える。
「この前はごめんねえ。誤解があったみたいで」
媚びるような営業部長の口調に、律華は眉を寄せた。
「夢藤さん、独断でこっちとの仕事を断ってたって。向こうの上司から謝られたよ」
「そうですか」
確認もせずに律華を責めたことは謝らないらしい。誤解の一言でなんとかしようとするなんて、馬鹿にしてる。
「ニュースで見たんだけど、君、世界的なオルガニストと結婚するんだって?」
課長が言う。
律華は口を引き結んだ。
彼に公開プロポーズされたことはすぐにネットニュースで流れた。テレビでも話題になったようだ。
だが、どうしてここでその話題が出るのか。
「オーキッド楽器の血縁者らしいね。ぜひわが社を売り込んでもらえないかな」
律華は不快さを隠さなかった。
「私がどうしてそんなことを」
「会社員は会社の利益のために尽くすものじゃないか」
「私、退職届けを出してるんですよ」
圧力をかけられて、絶望とともに出した退職届だ。
「なかったことにするからさ」
課長がへらへらと笑って言う。なおさらカチンと来た。人を馬鹿にするにもほどがある。