国宝級オルガニストは初恋の彼女に甘く口づける
「おいしそう! 作ったの?」
「出張シェフに作ってもらっておいた。ドイツ料理だよ」
 律華が目を丸くすると、奏鳴は笑った。

「まずはお疲れ様」
「ありがとう」
 奏鳴がドイツのワインとビールを用意してくれて、二人で乾杯した。

「お料理もお酒もおいしい!」
 律華が言うと、奏鳴はうれしそうに目を細めた。
 デザートはチョコレートと洋酒漬けのさくらんぼのケーキ、キルシュトルテだった。

 食べ終えると彼は食器を食洗器に入れて、律華をソファに呼んだ。
 並んで座り、奏鳴は改まった表情で律華に言う。

「あのあとの話、してもいい?」
 律華は顔を引き締めてうなずいた。
 結局あのあと、ホールの責任者が警察を呼んだから警察沙汰になってしまった。蕾羅は監禁と器物損壊、威力業務妨害で逮捕され、令嬢の御乱行! とテレビとネットで大騒ぎになった。

 律華は「被害者のAさん」になって、取材を断るのが大変だった。
 それを知った奏鳴は律華を自分のマンションへ避難させると言いだしてきかず、今日から一緒に住むことになった。

「夢藤さん、会社を懲戒解雇だって。ホールの件で逮捕されたせいだけじゃなくて、君の会社との仕事を勝手に断ったことも問題になった。会社内でパワハラもしてたらしくて、訴訟かもって騒ぎになってる」
「訴訟……」
「君も訴える?」
 律華は慌てて首を振った。
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