国宝級オルガニストは初恋の彼女に甘く口づける
 暴力こそなかったが、悪口に始まり、ばい菌と呼ばれて汚物のように扱われた。律華が触ったものに対して汚いを連呼して、そばを通っただけで悲鳴を上げられた。
 体育の球技で対戦するときは集中攻撃を受けた。
 気付いた教師が注意しても、彼女らはやめなかった。

 律華はいじめを両親には言えなかった。
 忙しい両親に心配をかけたくなかった。
 苦しみは心に降り積もる一方だった。

 ある日、唐突に学校に行くのが嫌になった。
 通学路を引き返し、あてもなく歩き回った。

 気が付くと古びた教会の前に来ていた。
 こんなところに教会なんてあったんだ。
 律華は驚きつつ、敷地の中に入る。

 この神様は助けてくれるだろうか。
 神社にもお寺にもお参りをしたが、いじめは止まなかった。
 神様なんていないんだから、結局は同じかな。
 それでも縋る気持ちは止められなかった。

 教会の扉を開け、ゆっくりと入る。
 中は薄暗かった。
 正面に祭壇があり、ステンドグラスを通した光が神秘的に照らしていた。
 うわあ、と見とれていたときだった。

 背後から繊細かつ荘厳な音楽が聞こえて来た。
 びっくりして振り返る。
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