国宝級オルガニストは初恋の彼女に甘く口づける
 二階に少年がいた。律華からは背しか見えない。だがきっと彼がなにかの楽器を演奏をしているのだ。
 音楽が止むと、自然と拍手をしていた。

「拍手ありがとう!」
 少年は振り向き、溌剌とした笑顔でそう言った。

「今そっちに行く!」
 装飾のように設置された円柱のらせん階段を、彼は駆け下りて来た。
 同い年くらいの美しい少年だった。ぱっちりした明るい茶色の目はやや垂れていて、優しそうだった。

「聞いてる子がいるなんて思わなかった」
「すごく素敵だった。神様が本当にいるかもって思うくらい」
 律華にしてみれば、それは最大級の賛辞だった。
 少年はまたにこっと笑った。気持ちが伝わったみたいで、うれしくなった。

「君も弾いてみる?」
「いいの?」
「いいよ。おいで」
 二人でらせん階段を上がると、ぎしぎしと音がなった。

 二階にはタンスより大きなものが目の間にあった。鍵盤があったから、楽器だろうとわかった。
「これ、なに?」
「パイプオルガンだよ」
「学校で見たオルガンと全然違う」
 初めて見るパイプオルガンは大きくて、威風堂々としていた。

 立ち並ぶパイプの下の鍵盤は三段もあって、足元にも鍵盤がある。両側にはたくさんのスイッチらしきものがあって、なにをどうするのか、さっぱりわからない。
< 8 / 63 >

この作品をシェア

pagetop