王太子の出す初めての命令
第2話
月のない暗い夜を、静かに急ぐ。
ふと顔を上げると、ただただ広い芝生の上に、人影が見えた。
暗くてよく見えないけど、誰だろう。
二人いる。
私は駆け足でそこに近づく。
男女の二人組だ。
男の人は、もしかしてランデル?
王太子の正装である真っ白な礼服を着て、白金の髪がピタリと整えられている。
パーティーを抜けだし、ここで婚約者となる女性と会ってる?
王太子礼と同時に、婚約が発表されるという噂がある。
とたんに胸がズキリと痛んだ。
だとしたら、私が邪魔してはいけない。
見てはいけないと思いながらも、どうしても視線は相手の姿を追ってしまう。
それにしても、高貴な貴族令嬢であるはずの女性のドレスが、あまりにも質素だ。
頭に頭巾を被っているのは、まるで私みたい。
もしかしたらお忍びってこと?
東屋のテント裏で、何かがキラリと光った。
剣を構える男たちが、複数人そこに潜んでいる。
「ランデル、危ない!」
そう叫んだ瞬間、兵士たちが一斉にランデルと女性に向かって斬りかかった。
「くそっ。邪魔しやがって!」
その兵士のうちの一人が、私に剣を振り上げた。
「きゃあ!」
「マノン!」
斬りつけられ、倒れた私にランデルが駆け寄る。
「マノン! 大丈夫か、しっかりしろ!」
傷口を押さえようとしたランデルの背に、密会していた女性本人がナイフを突き立てた。
「くっ……。貴様……」
ランデルの顔が、苦痛に歪む。
「全く。本当に真面目でいい子ちゃんなんだから。王子もあんたも。こんなバカで不器用なお嬢さん、私も嫌いじゃないけどね」
ロッテだ。
彼女は被っていた私と同じ深い緑色の頭巾を取り払うと、その場に投げ捨てる。
「王子はやったか?」
テント裏に潜んでいた5人の兵士のうちの一人が、ロッテにそう声をかけた。
「まだ生きてるでしょ。そのお嬢さんもね。あーぁ。二人ともバッサリ斬られちゃって。これじゃもう動けないわね」
彼女はスカートの中に隠し持っていた、もう一本のナイフを取り出した。
「二人とも、ここで仲良く死にな」
そう言ってランデルに短剣を振りかざしたロッテに、兵士が斬りかかった。
ロッテはそれを身軽に避ける。
「ここまでご苦労だったな。ロッテ。死ぬのは二人じゃない。三人だ」
「ちっ。やっぱりそういうことか。これだからお貴族さまってのは、信用ならないんだよ」
戦闘が始まった。
五人の兵を相手に、ロッテは短剣で互角に戦いを進めている。
胸を斬られ動けない私の手に、白い礼服を血に染めたランデルの手が重なる。
「大丈夫だ、マノン。キミのことは、必ず助ける」
彼は震える手でポケットから小さな笛を取り出すと、それを吹いた。
高く細い笛の音が、月のない夜空に響き渡る。
「おや。まだ動けたの? さすがだね王子さま」
ロッテは5人の兵士を一人で斬りつけ倒し終えると、着ていたスカートを腰から引き剥がした。
「じゃあね、お二人さん。これから色々大変だろうけど、頑張って!」
バサリとそれを脱ぎ捨てると、瞬く間に芝の広間を通り抜け、木に飛び移る。
東屋の屋根に駆け上がると、そこから城壁の向こうへと姿を消した。
「マノン。しっかりしろ。もう大丈夫だ」
ランデルが私の手を握りしめる。
彼も深手を負っているはずなのに、その手は力強かった。
次第に重くなるまぶたを持ち上げ、彼を見上げる。
「あぁ、よかった。キミが無事なら、それでいい」
ランデルは残された兵士たちを前に、剣を抜き立ち上がった。
「お前たち、ちゃんと生きているだろうな。これからしばらく、俺に付き合う覚悟をしておけ」
遠くから、複数の馬が駆けてくる蹄の音が聞こえる。
「ランデル王子! ご無事でございますか!」
駆けつけた兵士たちが、瞬く間に辺りを取り囲んだ。
「俺は大丈夫だ。早くマノンを……」
遠のく意識の中で、ふわりと体が浮き上がる。
次に気づいた時は、私はベッドの上だった。
ふと顔を上げると、ただただ広い芝生の上に、人影が見えた。
暗くてよく見えないけど、誰だろう。
二人いる。
私は駆け足でそこに近づく。
男女の二人組だ。
男の人は、もしかしてランデル?
王太子の正装である真っ白な礼服を着て、白金の髪がピタリと整えられている。
パーティーを抜けだし、ここで婚約者となる女性と会ってる?
王太子礼と同時に、婚約が発表されるという噂がある。
とたんに胸がズキリと痛んだ。
だとしたら、私が邪魔してはいけない。
見てはいけないと思いながらも、どうしても視線は相手の姿を追ってしまう。
それにしても、高貴な貴族令嬢であるはずの女性のドレスが、あまりにも質素だ。
頭に頭巾を被っているのは、まるで私みたい。
もしかしたらお忍びってこと?
東屋のテント裏で、何かがキラリと光った。
剣を構える男たちが、複数人そこに潜んでいる。
「ランデル、危ない!」
そう叫んだ瞬間、兵士たちが一斉にランデルと女性に向かって斬りかかった。
「くそっ。邪魔しやがって!」
その兵士のうちの一人が、私に剣を振り上げた。
「きゃあ!」
「マノン!」
斬りつけられ、倒れた私にランデルが駆け寄る。
「マノン! 大丈夫か、しっかりしろ!」
傷口を押さえようとしたランデルの背に、密会していた女性本人がナイフを突き立てた。
「くっ……。貴様……」
ランデルの顔が、苦痛に歪む。
「全く。本当に真面目でいい子ちゃんなんだから。王子もあんたも。こんなバカで不器用なお嬢さん、私も嫌いじゃないけどね」
ロッテだ。
彼女は被っていた私と同じ深い緑色の頭巾を取り払うと、その場に投げ捨てる。
「王子はやったか?」
テント裏に潜んでいた5人の兵士のうちの一人が、ロッテにそう声をかけた。
「まだ生きてるでしょ。そのお嬢さんもね。あーぁ。二人ともバッサリ斬られちゃって。これじゃもう動けないわね」
彼女はスカートの中に隠し持っていた、もう一本のナイフを取り出した。
「二人とも、ここで仲良く死にな」
そう言ってランデルに短剣を振りかざしたロッテに、兵士が斬りかかった。
ロッテはそれを身軽に避ける。
「ここまでご苦労だったな。ロッテ。死ぬのは二人じゃない。三人だ」
「ちっ。やっぱりそういうことか。これだからお貴族さまってのは、信用ならないんだよ」
戦闘が始まった。
五人の兵を相手に、ロッテは短剣で互角に戦いを進めている。
胸を斬られ動けない私の手に、白い礼服を血に染めたランデルの手が重なる。
「大丈夫だ、マノン。キミのことは、必ず助ける」
彼は震える手でポケットから小さな笛を取り出すと、それを吹いた。
高く細い笛の音が、月のない夜空に響き渡る。
「おや。まだ動けたの? さすがだね王子さま」
ロッテは5人の兵士を一人で斬りつけ倒し終えると、着ていたスカートを腰から引き剥がした。
「じゃあね、お二人さん。これから色々大変だろうけど、頑張って!」
バサリとそれを脱ぎ捨てると、瞬く間に芝の広間を通り抜け、木に飛び移る。
東屋の屋根に駆け上がると、そこから城壁の向こうへと姿を消した。
「マノン。しっかりしろ。もう大丈夫だ」
ランデルが私の手を握りしめる。
彼も深手を負っているはずなのに、その手は力強かった。
次第に重くなるまぶたを持ち上げ、彼を見上げる。
「あぁ、よかった。キミが無事なら、それでいい」
ランデルは残された兵士たちを前に、剣を抜き立ち上がった。
「お前たち、ちゃんと生きているだろうな。これからしばらく、俺に付き合う覚悟をしておけ」
遠くから、複数の馬が駆けてくる蹄の音が聞こえる。
「ランデル王子! ご無事でございますか!」
駆けつけた兵士たちが、瞬く間に辺りを取り囲んだ。
「俺は大丈夫だ。早くマノンを……」
遠のく意識の中で、ふわりと体が浮き上がる。
次に気づいた時は、私はベッドの上だった。