御曹司は不遇な彼女に本物の愛を注ぐ
私は橋の上で立ち止まった。ここから飛び降りれば死ねる?ううん。死ぬならもっと高い所じゃなきゃ……。

例えばそう、ビルとかね。あのビルとか良さそう。


『もう二度と家には戻りません。さようなら』


公孝にメッセージを送り、私はスマホの電源を切った。


そして、ビルの屋上。私は靴を脱ぎ、飛び降りる準備をしていた。


これでやっと自由になれる。

自由……?自ら命を絶つことが自由だというのなら私の行く先は地獄ね。良い行いをすれば天国に行くのなら、私は今まで誰かを助けたことはないから天国には行けそうにない。


彼に給料を渡していたのは彼を助けたことになるのかな?なんて、ね。


私も誰かに助けられたいな。無理だよね。私みたいな何も無い人間は。取り柄なんかない。顔だって普通。仕事だって要領がいいほうではない。

ほら。やっぱり私は悪い子。次、生まれ変わったら普通の人生が送りたい。愛されなくてもいいから、普通の家庭に生まれて、普通に学校に通って、普通に社会人をして。

あぁ、一度でいいから、そんな妄想を現実にしてみたいな……。


「早まるな!」

「!?」


飛び降りる直前、グイッと腕を引っ張られた。そのまま私は知らない人の胸の中にすっぽりと入った。


「馬鹿な真似はやめるんだ」

「っ……」


なんて綺麗な人なんだろう。サラサラな黒髪にアーモンド色の瞳。誰が見てもイケメンと言ってしまうほど顔面偏差値が高く、背は百八十センチはある。


スーツ越しからでもわかる筋肉質な身体。スーツはシワひとつない。腕には高級そうな時計がつけられていた。生活に困っていなさそう。私とは真逆の世界で生きている人だと察した。
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