御曹司は不遇な彼女に本物の愛を注ぐ
「どうして飛び降りようとしたんだ?それと怪我はないか」

「大丈夫、です。すみません。迷惑でしたよね」


バクバクと口から心臓が出そうなほど鼓動のスピードが早い。どんな状況でも死ぬのはやっぱり怖いんだ。


それにしても名前もわからない私を助けるなんて、お人好しな人だな。こういう男性はきっと誰にでも優しいんだろう。私だけじゃなくてもいい。ただ優しくされたことに涙が止まらなかった。


「!?お、おい」

「なんでもないんです。気にしないでください」


彼氏も昔は優しかった。私が泣いたら頭を撫でて慰めてくれた。そんな彼も今では変わってしまった。けれど、好きと言ってくれたことは一度たりともなかった。


「飛び降りようとしてたってことは、よっぽど辛いことがあったんだな」

「……っ」


そういって頭を撫でてくれた男性。


「俺で良ければ話を聞かせてくれないか?っと、名前を言ってなかったな。俺は神宮寺隼人、よろしくな」

「私は露川紫音です。よろしくお願い、します」


手を差し出されて緊張からたどたどしい挨拶になってしまった。相手からの好意を拒絶するのは態度悪いよね?

私は神宮寺さんを受け入れるように手を握った。それよりも神宮寺隼人……どこかで聞いた名前だ。


それから私は自殺しそうになるまでの経緯を神宮寺さんに話した。


両親から虐待を受けていたこと。学校でイジメられていたこと。社会人になってからは変なウワサを流され、会社でも居場所がないこと。彼氏がヒモになり私を暴力で支配してること。


そして身体には過去の古傷がいくつも残っているということ。私は包み隠さず、全てを話した。


神宮寺さんとは会ったばかりなはずなのに、どうしてだろう?こんなにも嘘偽りなく話せてしまうのは。

今まで誰かに過去の話をすれば引かれてしまうんじゃないかという不安から誰にも言わず、自分の秘密にしてきたのに。それもこれも相談相手がいなかったから話す機会がなかったというのもあるのだが。
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