気高き不動産王は傷心シンデレラへの溺愛を絶やさない
「先に優陽からどうぞ。聞くまで今日は帰らないからね」

「私も円香が教えてくれるまでは帰らないつもり」

 ふたりで乾杯し、甘いサワーで喉を潤しながら話に花を咲かせる。

 最後に会ってからしばらく経つのに、昨日別れた時のように話せるのはとても幸せなことだった。

「私は……うーん、いい人だよ」

 契約結婚で、しかも相手はあの水無月志信さんだ――などと言ったら、きっとひっくり返ってしまうに違いない。

 それに私たちの関係は非常にデリケートだ。いくら円香が大事な親友でも、志信さんの断りなく話すのは申し訳ない。

「いい人って。ざっくりしてるなぁ」

「円香の旦那さんは?」

「……いい人ではないかな」

「えっ」

 まだ一杯目なのに酔いが回っているのか、円香がテーブルに肘をついて息を吐く。

「どっちかっていうと、ひどい人。最低。鬼畜」

「そ、そんな人と結婚したの……?」

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