気高き不動産王は傷心シンデレラへの溺愛を絶やさない
 なぜだかひどくその胸に甘えたい気がして、おとなしく従うことにした。

 こんなふうに触れ合うことなんかなかったのに、パズルのピースがはまるような安心感を覚える。

「助けを求められていない気もするの。自分でなんとかしちゃう子だから……」

「それなら無理に手を貸そうとしなくてもいいんじゃないか。大事な友だちなんだろうが、考えすぎると優陽のほうが先に壊れる。……そうなったら俺がつらい」

「……うん」

 志信さんの言葉にずいぶん救われる。

「ありがとう、志信さん」

「どういたしまして」

 ゆっくり息を吐いてから、広い胸に顔を押しつけた。

 かつて感じたあの香りは、この家で生活するようになってから嗅いでいない。それが逆に、彼のプライベートに踏み込んでいることを示唆している気がした。

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