気高き不動産王は傷心シンデレラへの溺愛を絶やさない
 いつの間に私はこのぬくもりを恋しく思うようになったのだろう。円香の不安に触れて心細くなったのだろうか。

「……もし私も悩んでいるって言ったら、どうする?」

「俺のせいか?」

 視線を上げると、驚いているようには見えない志信さんの顔があった。

 私に悩みがあるとしたら自分のせいだと、すぐに思うところに彼の優しさがあると思う。

「志信さんのせいじゃない……けど、志信さんのことで悩んでる」

「聞かせてくれ」

「……どうして契約結婚なのに優しくしてくれるのかわからなくて、怖い……です」

 しばらく使わずにいた敬語が出たせいで、彼と線を引いたようになってしまった。

「俺の都合での結婚なのに気を遣わないのは失礼だろう」

「……それだけ?」

 そんな義務感だけで、今日まで優しくしてくれたのかと少し切なくなる。

 志信さんは考えた素振りを見せてから、真面目な顔でうなずいた。

< 170 / 276 >

この作品をシェア

pagetop