気高き不動産王は傷心シンデレラへの溺愛を絶やさない
水無月社長の低い声で呼ばれただけで、まさかこんなにも甘くやわらかい魅力的な響きに変わるなんて。

 胸のときめきが無意識に動きに反映されたのか、緩く巻いた紅茶色の髪が肩の近くでゆるりと揺れた。

「遠慮しないでいい。どうぞ」

そう言って、彼は差し出したままの手を再度私に示して見せる。

私からすれば天上の世界の人間にもふさわしい、上流階級の人――なのに。

 いつから私が慣れないヒールを歩きづらく思っていたことに気づいていたのだろう。

 そうでなければ、階段を下りるだけなのに手を貸そうとするはずがない。

 なぜこんな状況になっているかというと、一緒にオープニングセレモニーに来た親友の三堂(みどう)円香(まどか)が諸事情でいなくなってしまったからだ。

「本当に……いいん、ですか?」

< 2 / 276 >

この作品をシェア

pagetop