気高き不動産王は傷心シンデレラへの溺愛を絶やさない
 今度は志信さんを困らせないために離婚する。それだけの話だ。

 頭ではわかっていても、胸が苦しくて切ない。

 重たい気持ちに押し潰されそうで、呼吸するたびに心が痛んだ。

 ――私は志信さんが好きだ。

 きっと、ずいぶん前からそうだった。

 だから彼を守りたい。そのために私がいないほうがいいなら、いくらでもこの気持ちを我慢する。

「新しい家を見つけるまでは時間が欲しいけど、離婚届なら明日にでも取りに行け――」

「やめてくれ」

 結婚指輪を外そうとしたら、志信さんがテーブルの向こうから手を伸ばして止めた。

 手首を掴んできた手の力は強くて、びくともしない。

「だめだ」

「でも……」

「だめだと言ったんだ。俺はまだ……いや、このままずっと、君と夫婦でいたい」

 指輪を引き抜こうとしたまま止まっていた手から、ふっと力が抜ける。

「今、なんて?」

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