気高き不動産王は傷心シンデレラへの溺愛を絶やさない
 電話の向こうでがさがさという音がする。メモでも取ろうとしているのだろう。

「とある男に、いろいろと言い足りないことがあってな。これが解決すれば君の仕事もひとつ減るはずだ」

『なるほど。詳細はまた週明けに聞かせてください』

「さすが、俺の秘書は察しがいい」

 閉じたドアに背中をもたれさせて言うと、あきれた声が返ってきた。

『……社長だけは敵に回したくありませんね』

「ん?」

『なんでもありません。すぐに対応いたします』

「ありがとう。よろしく頼むよ」

 ほんの数秒前までオフの緩い声をしていたのに、もう仕事モードに切り替わっている。

 俺が長年、魅上に秘書を任せているのはこの切り替えの速さも理由のひとつだ。

 余計なことは言わず、聞かず、合理的に判断し、俺に足りないことは遠慮なく口にする。やや頭が固いと感じる時はあるが、俺にとって欠かせない人材だ。

 電話を切り、優陽のもとへ戻るため部屋を出る。

 早く彼女を抱きしめて、同じ夢を見たかった。
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