気高き不動産王は傷心シンデレラへの溺愛を絶やさない
　外さなくて済んだ左手の薬指の指輪に視線を落とすと、たまたま膝の上に置いてあったバッグの中身に目が留まった。

　スマホに通知がきている。

「……ん？」

　誰からだろうと見てみると、母からの連絡だった。

　やけに長文のメッセージを読み終えてから、志信さんに寄りかかる。

「どうかしたのか？」

「いい話を聞けたから、うれしくなっちゃった」

「いい話？」

「うん」

　母から届いた連絡をそのまま志信さんに見せる。

「宗吾くん、また海外に転勤なんだって。しかも、今度はかなり長期で。もしかしたらそのまま向こうにいなきゃいけないかもしれないらしいよ」

「……ふうん、そういうふうに伝わっているのか」

「え？」

「もうなにも心配しなくてよさそうだな。よかったよ」

　今、しれっとなにかごまかされた気がした。

　探るように志信さんの顔を覗き込むと、不意打ちのキスが落ちる。

< 263 / 276 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop