気高き不動産王は傷心シンデレラへの溺愛を絶やさない

 本当に気にしていない様子で言われ、うなずいておく。

「教えるとしたら、あとは……」

 話を変えるために言ってから、思いついた人物がひとりしかいないことに気づく。

 家族の次に幸せを報告したい相手がいるとしたら、それは親友の円香だ。

 最後に会ってから何度か連絡のやり取りはしているものの、悩みが解決したかどうかは聞けていない。

 少なくとも電話をする時はいつも明るい声を聞かせてくれていた。

「悩んでいた友だちに、解決した?って聞いてもいいと思う……?」

「ああ、円香さんか」

 志信さんがぽつりと言う。

「大丈夫……じゃないか?」

「本当にそう思う? 困らせないならいいんだけど」

「それで気まずくなるような関係じゃないだろう? だったら平気だ」

「たしかにそうだね。後で連絡してみる」

 背中を押してもらって安堵した私と違い、志信さんはなにやら苦い顔をしている。

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