気高き不動産王は傷心シンデレラへの溺愛を絶やさない
 鼻孔をくすぐるハーブのような、シトラスのような、それでいて微かにスパイシーさを感じる香りは香水だろうか?

 こんな距離にならなければ、きっと感じることのなかった香りは、私の胸に奇妙な甘い疼きを生み出した。

「転ばなくてよかった。ひねってないか?」

「少しだけ。でもこの程度なら問題ありません」

「足もとまで気が回らなくてすまなかった」

「私が転んだのが悪いんです」

 顔から火が出そうだ。しかもさっきから心臓が変な音を立てて大騒ぎしている。

 早く彼から離れたいけれど、今は甘えるしかない状況でどうしようもない。

 恥ずかしくていたたまれなくなっていると、水無月社長は私を支えて近くのベンチに座らせてくれた。

 そして脱げてしまった靴を取りに向かってくれる。

 そこまでさせてしまうなんて、と情けなくなっていると、彼は私の前に膝をついて靴を差し出してきた。

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