気高き不動産王は傷心シンデレラへの溺愛を絶やさない
 苦い記憶がよみがえりかけて、無意識に眉間に力が入った。

 私とは対照的に、水無月社長は余裕のある表情をしている。

 自分が変に意識しすぎているんじゃないかという気がして、その顔を見られなくなった。

 そこにまた、ドアをノックする音が響く。

「早かったな」

 そう言った水無月社長が私の代わりに応対してくれる。

 五分と経たず戻ってきた彼の手には、銀色のトレイに載った軽食のプレートがあった。

「ホテル内をずいぶん歩いたし、休憩が必要だと思ってな。頼んでおいたんだ」

 そこまでしてもらうのは申し訳ない――と辞退しようとして、ぎりぎりのところで呑み込んでおく。

 既に用意されたものを断るのは、厚意に甘え続けるよりも申し訳ない気がした。

「なにからなにまですみません」

「ほかに必要なものがあれば言ってくれ。用意させる」

「……はい」

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