気高き不動産王は傷心シンデレラへの溺愛を絶やさない
 さまよわせた視線は、品よく座る水無月社長の膝で止まった。

「あ、そこ……」

 おそらくは上等だと思われるスーツに土がついている。

 なぜ、と考えてから、靴を拾った彼が私に差し出そうと地面に膝をついていたのを思い出した。

「ん?」

「ちょっと待ってくださいね」

 今度こそバッグからハンカチを取り、身を乗り出して水無月社長の膝に手を伸ばす。

「ここも……」

 気づかないうちに跳ねていたのか、泥がジャケットの裾にもついていた。

 それも一緒にハンカチで拭うと、戸惑いに満ちた声が降ってくる。

「言ってくれれば自分でやるんだが……」

「え?」

 顔を上げると同時に、せっせと動かしていた手が止まった。

 手を伸ばさずとも触れられる距離に、見目麗しい顔がある。

 睫毛の本数まで数えられそうだ――と考えてから、ふわっと彼の香りを感じて意識が現実に戻った。

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