気高き不動産王は傷心シンデレラへの溺愛を絶やさない
 いまだ離してもらえていない手を、もう少し彼と繋いでいたいと思ってしまうくらいに――。

 湧きあがる想いを口にできるはずなどなかった。

 現実とは思えないひと時の終わりを告げるように、彼の手が離れていく。

「もし、本心からそう思ってくれているなら」

 思わず顔を上げる。

 そこにはどこか困ったような水無月社長の顔があった。

「もう少しだけ、君の時間をくれないか?」

「はい」

 考えるよりも早く唇が動いて、夢の続きを願ってしまう。

「じゃあ、行こうか」

 彼の声もまともに聞こえないくらい、心臓がうるさくてたまらない。

 今度はうなずくだけで精一杯だった。

 ――誰もが羨む素敵な男性とふたりきり。エスコートされて、楽しいお喋りに花を咲かせる特別な時間。

 もしこれが夢なら、いつもは踏み出せない一歩を踏み出して楽しんでもいいはずだ。

 この一歩が私の人生を大きく変えるような――そんな気がした。

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