気高き不動産王は傷心シンデレラへの溺愛を絶やさない
「す、すみません」

 ソファの一番端まで身を引いてうつむく。

 意図したものではないけれど、こんな距離まで自分から近づいてしまうなんて。

 耳が熱くてじんじんする。困惑する水無月社長の視線を感じて、顔を上げられそうにない。

 いろいろと気遣ってもらったから、なにか返したい気持ちがあった。だから彼の服が汚れているのを知って、きれいにしなければと思ったのだけれど。

「結局汚してしまったな」

 持ったままのハンカチを、水無月社長が優しく取り上げる。

「俺のために、すまない」

「ハンカチなら家でも洗えますから。スーツは平気ですか? シミにならなければいいんですが……」

「その時は新調する。気にしないでくれ」

 その答え方からまた、彼は違う世界の住人だと察する。

節約のために今ある服をなるべく長く着ようと、シミ抜きに勤しむような相手ではないのだ。

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