気高き不動産王は傷心シンデレラへの溺愛を絶やさない
 夢から覚めて現実へ戻る時が来たのだと自分に言い聞かせ、残念に思う気持ちを抑え込む。

「ここまでお付き合いいただきありがとうございました。プレザントリゾートの裏話もたくさん聞けて、本当に楽しかったです」

「こちらこそ、思いがけず楽しい時間になった。藍斗にも感謝しないとな」

 名前で呼ぶあたり、筑波社長とは仲がいいのだろう。

「また案内が必要になったらぜひ呼んでくれ。まだ紹介したい場所がたくさんあるんだ。君の意見は貴重だし」

「その時はぜひ」

 きっとそんな日は来ないと、水無月社長もわかっているだろう。

 プレザントリゾートのオープンでますます忙しい日々を送るだろうし、それでなくても社長としてやることが山のようにあるはずだ。

 今回の案内だって、友人の筑波社長に頼まれたからにほかならない。

「軽食、せっかく用意してくださったのに残してごめんなさい」

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