気高き不動産王は傷心シンデレラへの溺愛を絶やさない
運命の夜
 夢のようなひと時から、あっという間に十日が経った。

 私の身の回りに大きな変化はない。

 今日も会社のパソコンのキーを叩きながら、備品の管理と消耗品の発注、資料のまとめと一般的な事務員らしい仕事をするだけ。

 当たり前の日常こそが現実だとわかっているから、あの日を夢のようだと思うのかもしれない。

「野瀬さん、ごめん! 数字の確認、残ってるところをお願いしてもいい? 子どもが熱出しちゃったみたいで、迎えに行かなきゃいけないの」

 横から声をかけられて咄嗟に首を縦に振る。

「わかりました。あとは任せてください」

「いつもいつも本当にごめんね。この埋め合わせは必ず……!」

 同僚がぺこぺこ頭を下げながら慌ただしく早退するのを見送り、彼女の分の仕事に手をつける。

 三歳の娘さんはよく熱を出すようで、こんなふうに仕事を代わることが多かった。

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