気高き不動産王は傷心シンデレラへの溺愛を絶やさない
 以前ほかの社員から嫌みを言われたらしく、今は私がお願いを聞いている。

 仕事を押しつけられているんじゃないの、なんて私も言われたけれど、そんなふうには思わない。

 私の両親は幼い頃に事故で亡くなった。

 引き取ってくれた親戚夫婦は私を立派に育ててくれたけれど、もっとたくさん両親と過ごしたかったという気持ちはいつまでも消えない。

 だから、母親である同僚を助けたいというよりは、彼女の子どもが寂しい思いをしないよう手伝いたいという気持ちで協力している。

「あ、ズレてる」

 数値の欄がひとつズレていることに気づき、修正をかける。

 このままでは誤発注でガムテープが三百個届くところだった。

 ほっとしながら、最後の欄まで問題がないことを確認し、最終チェックをお願いするためメールを部長に送る。

 集中力が切れたタイミングで、ふとスマホの通知に気づいた。

 円香からだ。

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