気高き不動産王は傷心シンデレラへの溺愛を絶やさない

　そこにいたのは、どう見ても水無月社長だった。

　会社の敷地と歩道を隔てる門の前で立ち尽くす彼は、誰かを探すように辺りを見回している。

　話しかけられる空気ではなく、横を通り過ぎる社員たちも興味と疑問を顔に浮かべていた。

「うちが吸収合併される話、聞きました？　もしかしたらウェヌスクラースの傘下に入るのかも」

　とんでもない人がいると言った彼女の声は興奮を示して弾んでいる。

「土地開発会社が、インテリア雑貨を販売する会社に興味を持つんでしょうか……？」

「どこでどう繋がってるかわからないですもん。夢くらい見させてくださいよー」

　明るく言った彼女は、「それじゃあ」と遠ざかっていった。

　たしかに水無月社長のもとで働けるなら幸せかもしれない。

　一般人の私の感想や意見を真摯に聞いてくれるような人なら、社員の発言も積極的に聞き入れてくれるだろう。