気高き不動産王は傷心シンデレラへの溺愛を絶やさない
 うちの会社の前に現れたのは、きっと吸収合併の話が理由だと思いながらも、心のどこかで違うかもしれないという気持ちがあった。

 結局私は、ドレスも靴もまだ取りに行けていない。

 彼の優しい声と笑みを思い出せるうちは、会うのが怖い気がして。

 そうはいっても、水無月社長は忙しい人だ。

 毎日たくさんの人と接しているだろうし、私のことなんてきっと忘れているに違いない。

 気づいてほしいような、ほしくないような。

 どきどきしながらほかの社員と同様、知らない振りをして彼の前を通り過ぎようとする。

「見つけた」

 不意に腕を掴まれて息をのむ。

 振り返ると、私をまっすぐに見つめる水無月社長の姿があった。

「水無月社長……」

「申し訳ないが、至急話をしたい」

「急にそんなことを言われても」

 あの日出会った彼はもっと余裕のある穏やかな人だったのに、今はひどく焦って見える。

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