気高き不動産王は傷心シンデレラへの溺愛を絶やさない
「ですが、この写真を撮られた時の状況はそういうものじゃありません。私が転んだから助けてくださっただけですし、それに……」

「事実がどうであれ、既に写真は撮られてしまったんです。件の記者が所属する会社には厳重注意とデータの消去を命じましたが、施設内で撮影したものは自社に権利があるとの一点張りで――」

「責められるべきは野瀬さんじゃない。彼女を巻き込んだ俺だ」

 言葉尻がきつくなる魅上さんを止め、水無月社長が私に申し訳なさそうな眼差しを向ける。

「今、説明した通りだ。こうなったからには、妙な噂を流される前に対処する必要がある」

「具体的にどういったことをするつもりですか?」

 再び走り出した車の音が、どこか遠く感じられる。

「俺と結婚してもらいたい。この関係が遊びではなく、本物だと見せるために」

「けっ……こん」

 それはさっき、円香から聞いた言葉だ。私のものではない。

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