気高き不動産王は傷心シンデレラへの溺愛を絶やさない
波乱の結婚生活
 契約結婚を引き受けてから三日後、私は〝水無月優陽〟になった。左手の薬指を飾るプラチナの指輪がその証だ。

 その後は会社に退職届を出しつつ引き継ぎ作業を行い……と慌ただしく過ごし、月が変わる頃にようやく引っ越し作業と手続きを終えた。

 万が一にもこの結婚が偽物だと気づかれないよう、同居まで徹底すると聞いた時はさすがに驚いた。

 例の写真は私たちの結婚発表から遅れて公の目にさらされたため、完全に話題を持っていかれたようだった。結婚した意味があった、ということだろう。

「君の部屋は既に整えてある。足りないものがあったら言ってくれ」

「はい」

 これまでは荷物を送るばかりで来たことがなかった彼の家に、初めて足を踏み入れる。

 オートロック式の高層マンション。そして最上階の三十階すべてが自宅だという。いわゆるペントハウスというやつだ。

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