気高き不動産王は傷心シンデレラへの溺愛を絶やさない
 志信さんがまた苦い顔をして手を引っ込めた。

「す、すみません。なんとかします」

「ああ、頼む」

 協力関係にあるはずなのに、どこか線を感じる素っ気なさだった。

 これは契約結婚なのだと態度で教えられているようで、ほんの少し寂しさを覚える。

 ホテルで案内をしてもらっている時のほうが、まだ彼との距離が近い気がした。



 努力したからといって、これまでとあまりにも違いすぎる生活にすぐ慣れるはずもなく。

 週末を迎えたところで、やっと両親に電話をかける心の余裕ができた。

 発信と書かれた画面をタップする前に、ゆっくり深呼吸をする。

「もしもし、お母さん。今、平気?」

『ん、大丈夫だよ。どうしたの?』

 血の繋がらない母はいつだって私に優しく接してくれる。

< 83 / 276 >

この作品をシェア

pagetop