気高き不動産王は傷心シンデレラへの溺愛を絶やさない
 震える声をごまかそうとうなずくと、込み上げた涙が頬を流れていった。

『でも優陽ちゃんが結婚したって言ったら、宗(そう)吾(ご)くんが驚くだろうね』

 その名前を聞いた瞬間、すっと涙が引っ込む。

「……そう、だね」

 張(はり)谷(や)宗吾は、一応私の従兄にあたる。

 ただしそれは引き取ってくれた両親から見た関係性で、実際の関係は遠い。今の両親は血の繋がった両親のはとこだからだ。

 年は私より四つ上の三十歳。ぱっと見は好青年で、人当たりがいい。

 でも、昔から私に対しての関わり方はうれしくないものばかりだった。

 彼が一年前に海外へ行くまでは、親戚の集まりがあるたびに『まだ相手がいないなら、俺が引き取ってやろうか?』などと声をかけられたものだ。

 まるで自分の持ち物かのように気安く触れ、『昔に比べていい身体つきになったな』などと言うのも本当に嫌だった。

< 86 / 276 >

この作品をシェア

pagetop