気高き不動産王は傷心シンデレラへの溺愛を絶やさない
『でしたら、私も大丈夫です。一年限りの結婚ですし、変に混乱させたくありません』

 結局私は電話で伝えてしまったけれど、彼はどうしたのだろう。

「お茶でも淹れようか。それともコーヒー?」

 リビングに着くと、志信さんはソファの前にあるテレビの電源をつけた。

 キッチンへ向かおうとしたのを見て、慌てて追いかける。

「私がやります」

「気を遣わなくていい。俺がやるから座っていてくれ」

 やんわりとリビングへ戻るよう促される。

 おとなしく引き下がるわけにもいかず、首を左右に振った。

「こういうのは妻の仕事でしょう?」

「少なくともこの家に『妻がやらなきゃならない仕事』はない。手が空いているほうがやればいいだけの話だからな。そして今、俺の手は空いている」

「そう言っていつも私に仕事を任せてくれませんよね。専業主婦として雇うという話だったのに、これでは……」

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