気高き不動産王は傷心シンデレラへの溺愛を絶やさない
「そういうわけではないんです。たぶん、ひとりで見てもあまりおもしろくないから、新しい作品に手を出そうと思わないんじゃないかと。友だちと一緒に映画を見たり、ドラマを見たりするのは好きですよ」

「なるほどな。あくまでコミュニケーションツールとして活用しているのか」

 なかなか難しい理解の仕方をされてしまった。

 でも、志信さんの認識は間違っていないと私も思う。

 映画を楽しむより、それを見て親しい人と話すのが楽しいのだ。

「そういうことなら、これからは一緒に見ようか。夫婦としての時間を過ごすのも大切だろう?」

 お茶を飲もうと、湯呑みを引き寄せかけた手が止まった。

 彼の形のいい唇から『夫婦』という言葉が出るだけで、いちいち反応してしまう。

「そう……ですか?」

「違ったか?」

「誰もいないところで夫婦らしくする必要があるのかなと思ったんです」

< 94 / 276 >

この作品をシェア

pagetop