気高き不動産王は傷心シンデレラへの溺愛を絶やさない
 リモコンを操作する志信さんの横に落ち着き、テレビを見る準備をする。

 こんな練習ならいくらでもできそうだと思った。



 ひと月が過ぎる頃には、だいぶ志信さんとの生活に慣れていた。

「君のおかげで、すっかり残業しない癖がついてしまった」

 今日もまた、仕事を終えて帰宅した志信さんの前に夕飯を並べると、そんなことを言われた。

「いつもいつも、立派な夕飯を用意して。もっと簡単でいいんだよ」

「そういうわけにはいきません。これが私の、妻としての役目だと思っています」

「まあ、俺としては毎日うまいものを食べさせてもらえるからいいんだが。それじゃあ、いただきます」

「はい、召し上がれ」

 志信さんの真正面に座って、私も手を合わせる。

 いただきます、と小さく言ってから手もとの茶碗を手に持った。

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