学園王宮シークレット ~キングとナイトの溺愛戦~

2.『東のキング』って、誰のこと?

 今日から秀麗学園に登校。
 こんな時期に転入して、友達ができるかなって。目が覚めたら急に不安になちゃった。
 でも時間になったら、当然のようにしーちゃんが迎えに来てくれたから。
 私は笑顔で家を出ることができる。
 
「おはよう、セリ。ちゃんと朝ごはん食べた?」
「うん、自分でチーズトーストを焼いたよ」
「そっか。セリのお母さんは昨日も夜勤か。ここんとこ忙しそうだね」
「そうなの。私が秀麗に決まってから、ますます看護のお仕事を張り切ってくれてるみたい」

 学校までは徒歩20分の道のり。
 しーちゃんとそんな他愛もない会話をして、ゆっくりと歩く。
 こうやって並んでいると、一緒の学校なんだって実感できてうれしいな。
 頑張って試験を受けて良かった。

――でも。
 秀麗の門をくぐってすぐ、私はしーちゃんの隣を歩けなくなるの。


 *★*


「ねえ、見て! 紫己先輩が来てる! 今朝はずいぶん早くない?」
「ほんとだ、ラッキ~♡ 入り待ちしといて良かったね!」

 華やかな視線がいっせいに集まって、あっちこっちで黄色い声が上がった。
 えぇ!? 何でこんなに注目されてるの?
 まるでアイドルの追っかけ。
 しーちゃんが進む道をみんながさりげなく空けて、女の子たちが一定の距離を保ちながら囲んでいる。

「シキさんって何であんなにカッコいいの? クールな感じがたまんないよね!」
「ぜんぜんファンサくれないけど、そこがまたイイんだよ~」
「うん、うん。まさにキングって感じ‼」

 聞こえてくる女の子たちの会話、これって全部しーちゃんのことを言ってるんだよね?
 モテるのは前からだけど、だいぶパワーアップしてる気がする。
 あの子なんてスマホで写真とってるよ。
 あっちは応援うちわとか持ってるし。

「……」

 思いがけない光景に圧倒されて、私はちょっと後ずさり。
 でもしーちゃんには日常のことなのかな?
 特だん気に留める様子もなく、無愛想なままスタスタと昇降口に向かっていく。
 気後れして立ち尽くしていると、距離が3メートルくらい開いてしまった。
 それに気づかないまましーちゃんは、いつの間にか、群衆を押しのけてきたギャルっぽい女子達に囲まれてしまう。

「シキ君、おはよっ♡ ねー、春休みに送ったライン、いっかいも既読になってないんだけど。何してたの?」
「ねーねー今日ヒマ? キングの3人とウチらで、どっか遊びに行こうよ~」

 遠巻きに見ていた女の子達とは違い、グイグイ迫るお姉さま方。
 クラスの友達なのかな?
「朝からうるさいよ」なんて、しーちゃんは塩対応で返すけど。
 彼女たちはそれさえも喜んで、「私たちは仲がいいの」って、周囲に何となくマウントしてるみたい。

 うっ……こういう雰囲気、苦手なんだよね。
 しーちゃんの隣にいて唯一困るのは、知らぬ間に『女子の戦い』に巻き込まれちゃってること。
 ただの幼なじみです! って言っても信じてもらえなくて、何度イヤな思いをしたことか……。

 間違いなく、しーちゃん人気は加速してるし。
 私は『2年の転校生』という異例の存在だし。
 しばらく私たちの関係は、秘密にしておいた方がいいかもしれない。

「何やってるの? 早く来なよ。教室まで連れてくから」

 私の足が止まっていることに気づいたしーちゃんが、振り返って「こっちにおいで」と手招きした。
 周囲の視線がいっきに向いて、矢のように鋭く突き刺さる。

「だれ? あの子」
「え~、見たことな~い」
「カラー、2年じゃない? 何でシキ君と喋ってるわけ?」

 咄嗟にカバンで顔を隠す。
 うわっ……この状況。やっぱり、だいぶ勇気いるかも。

「あ、あの……ここで大丈夫です。センパイ」
「はい?」
「連れてきてくれて、ありがとうございましたー!」

 キャラ設定は『たまたま通りかかったイケメンに、道を尋ねたモブ転校生』。
 怪訝そうなカオのしーちゃんを振り切って、その場を立ち去るしかなかった。

 
 *★*


宮芹七(みやせりな)です。今日からよろしくお願いします」

 2年A組の教室にたどりつき、ホームルームで無事にあいさつをすます。
 担任は優しいパパって感じの先生。
 窓ぎわの一番後ろの席に座ると、3階の教室からは遠くに富士山が見えた。
 うん、気持ちがいい。

 秀麗は団結力を高めるために、3年間クラス替えがないんだって。
 4月スタートとはいえ、私は完全な新参者。
 きっともう仲良しグループができちゃってるよねって、心配してたけど。
 席が近い女の子とペンケースのキャラで盛り上がって、あっという間に、名前呼びができるくらい打ち解けた。

 黒髪ボブがかわいい(あおい)ちゃんと、ショートヘア美人の(みやび)ちゃん。
 そして2人は休み時間にはいった途端。
 真剣な顔で私を囲んで、ズバリと核心をついてくる。

「ねー。シキ先輩を追っかけて、転校してきたって。本当?」

 なんで、ここでもしーちゃんの名前が!?
 びっくりして、持っていたノートを派手に落としてしまった。
 というか、しーちゃんと一緒がよくて秀麗に来たって、何でもう知ってるの!?

「う、うん……。実はそうなの」

 とうぶん秘密にしておこうって思ったのに、もうバレちゃった。
 でも友達にウソは言えなくて、素直にうなずく。

「やっぱりね。編入生が女の子って聞いて、2年で噂になってたんだよ」
「朝も一緒にいたのみんな見てるし、あっという間に有名人だね!」

 嬉しくないけど、しかたない。まあ、ずっと隠しておける事じゃないし。
 これからは女の子たちからの厳しい視線も、覚悟するしかないかな。
 そう気持ちを切り替えたんだけど――。

「推し歴って、どれくらい?」

 へ? 歴?

「雑誌にのったあたりからSNSでいっきに拡散されて。紫己先輩のファンって、他校にも増えたんだよね~」
「そうそう。今年の1年なんて、ほとんどが紫己さん見たさに入学らしいよ」
「でも芹七は転校までしてきちゃうんだもん。その上をいってるって!」
「ねー、どうだった? 今朝、紫己さんの本物を見た感想!」
「画像で見るより、数倍カッコイイ♡っていうか、美しいよね♡」

 あれ……私、少し勘違いされてる?
 しーちゃんを追いかけて秀麗に来たことはバレてる。
 でも、幼なじみってことは、みんなに知られてないみたい。
 そんでもっていつの間にか、熱狂的ファンの1人になってる!?

 嘘ではいないけど、微妙にズレてるなぁ。う~ん、訂正するべき?
 私が戸惑っていると、葵ちゃんと雅ちゃんはさらに声をはずませる。

「ねーねー、クールでキレイな紫己さんが1番人気なのは間違いないんだけど。ウチの学校には他にも、カッコイイ先輩たちがいるの知ってる?」

 首を横にふって知らないって答えると、2人はうれしそうに説明してくれた。

「まず生徒会長、御幸蓮(みゆきれん)先輩。大人で人当たりのイイ、正統派イケメン♡ 全国模試1位で特に数学が強くて、大学の理工学部ではすでに研究のお手伝いをしてるらしいよ」

 うわぁ。御幸くんすごいなぁ。昔から頭が良くて落ち着いてるもんね。人気があるのも納得。

「でもって同じく3年A組、早乙女(さおとめ)すばる先輩。ちょっとチャラいけど、オシャレで可愛いの♡ うちのリニューアルした制服って、すばるさんが1年の時にデザインしたものなんだよ」

 へぇ。紺ブレの襟に金糸が入ってるとことか、プリーツスカートの裾が2段になってるとことか。すっごく素敵だなって思ってたけど。
 男子生徒がデザインしたなんてびっくり。

「紫己さんを入れてその3人が、今はずっと『キング』ね!」

 キング? そう言えば、朝にしーちゃんをとり囲んでた先輩たちも、そんなことを言ってたっけ。

「えっと……キング? 今はって?」
「うちの学校って行事ごとに何でも勝負するの。『キング』は、イベントの王者に与えられる称号だよ」
「今はって言っても、ここんとこずっと3年A組の一人勝ちだから。キングと言えば紫己先輩、御幸先輩、すばる先輩のイケメン3人のことかな。教室の方角もまじえて、通称『東のキング』なんて呼ばれてるよ」

 ふぇ~。そんなの初めて聞いた。面白い伝統だなぁ。

「あとね、『西のナイト』って呼ばれてる先輩たちがいて――」

 葵ちゃんがそう言いかけると同時に、3時間目の始業のチャイムが鳴り響いた。
 まだ喋り足りないって顔をして、2人は自分の席にもどる。
 あ~、残念。私ももっと教えて欲しかったよ。
 何かますます、学校生活が楽しくなりそう。
……って、あれ?
 私としーちゃんの関係って、けっきょくどこまで話したんだっけ?
 
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