学園王宮シークレット ~キングとナイトの溺愛戦~
4.クイーンになっちゃダメなの?
体育祭は5月の半ばにある大きなイベント。
AからEまである5クラスを、学年を混ぜて縦割りにして、合計得点を競うんだって。
私たちはAチーム。カラーは赤。
リーダーはもちろん3年A組の3人。
しーちゃん、御幸くん、すばる先輩だ。
今日からさっそく、3年生を中心としたリレーや応援合戦の合同練習が始まった。
5時間目のグラウンド。
1、2年生は女子も男子もみんな、憧れの先輩たちと熱を共有できることにワクワクしている。
「体育祭の勝利に必要なのは、戦略と戦術と後方支援だ。3学年全員で力を合わていくぞ!」
団長の御幸くんがそう喝をいれると、大きな拍手と気合いの入った歓声がわきおこった。
「応援タップも忘れないでね! 今回のイベントもオレ達が『キング』の栄冠を手にするよ~」
すばる先輩がひらひら手を振ると、女の子達からは黄色い声があがる。
しーちゃんはっていうと……
特に何か目立つことを言うわけでもなく、2人の横で競技の指示を出したり、荷物を運んだり。
いつもと変わらないクールな表情で、自分の仕事を淡々とこなしている。
でも不思議と、誰よりも注目を集めてる気がするの。
キレイな顔、長い手足。そこに立っているだけでオーラがすごい。
知らず知らずのうちに視線が吸いとられると、不意に、しーちゃんと目が合った。
わわっ。見惚れてるのバレちゃった?
でもすぐに、あからさまに目を逸らされる。
いつもなら目を細めて、からかうように笑ってくれるのに。
ああ、そっか。これが他人のふり。
協力してくれるのはうれしいけど、やっぱり少し寂しいかもね。
☆★☆
「セリちゃん、聞いたよ。なんか面白いことになってるんだって?」
休憩中に1人でお水を飲んでいたら、御幸くんが声をかけてきてくれた。
「紫己とは他人でガチファンで?――って。ぷぷっ。あいつ、ここんとこずっと不機嫌なんだよ」
学校内で唯一、私としーちゃんの関係を知っている御幸くん。
この状況を遠くから見ていると、私たちの動きがおかしくてたまらないみたい。
「ごめんね。御幸くんまで、複雑な状況に巻きこんじゃって」
「俺は喜んで付き合うよ。だって何か興味深い。紫己のポーカーフェイスを、セリちゃんがどれだけ崩せるのか」
「あはっ」
マジメで優しそうに見えて、けっこうイイ性格してるんだよね。御幸くんって。
「あれ? 御幸と芹七ちゃんって知り合いなの?」
女の子に囲まれていたすばる先輩が、輪から抜けだして近づいてきた。
「小学校の時に塾が一緒だったんだ。久しぶりの再会ってやつ」
「へぇ~、じゃあシキともちょっとは、面識あったのか。な~る。だから転校してきちゃうほど、古参ファンなんだね」
すばる先輩が妙に納得したカオでうなずく。
私と御幸くんはこっそり目を合わせて、思わず口元をゆるませた。
「あ、じゃあさ! これも何かの縁だし、今回の『クイーン』は芹七ちゃんに頼めば?」
ポンッと手を叩き、すばる先輩が笑顔を見せる。
クイーン? そういえば御幸くんも、初日にそんなこと言ってたな。
たしか優勝チームにメダルをかける役の、女の子のことだよね?
「ああ。俺もそう考えたんだけど」
「でしょ? こんだけ可愛いし、一途で行動力あるし。編入試験をパスしたってことは頭もいいんでしょ? うってつけじゃん!」
「まあ、セリちゃんなら。他の生徒も納得するんだろうけど。しかし……」
「しかし?」
「紫己がな……」
御幸くんが言い淀むと、すばる先輩が表情を歪ませて大げさにため息をつく。
「どうせシキは今回も、オレ達にクイーンなんて必要ないとか言うんでしょ。あ~もう、そんなのつまんないよ! せっかくキングに権利があるのに、イベントの華を誰も選ばないなんてさ」
「俺もそうは言ったんだけど」
御幸くんは眉をよせて苦笑い。しーちゃんとすばる先輩の板挟みになって困っている。
どうやら『クイーン』は栄誉ある役で、前回のイベントの勝者によって推薦されるみたい。
何でしーちゃんが嫌がるのかは、分からないけど……。
「私でいいんなら、やりますよ?」
そんな重要な役、務まるのか不安だけど。
みんなの為に何かできることがあるなら、お手伝いしたいって思った。
「やったね~!! じゃあ、今回の体育祭のクイーンは、芹七ちゃんで決まり!」
「ダメだ」
しーちゃんが背後から現れて、すばる先輩の頭をグイッと上から押しつける。
「何を騒いでるかと思えば。僕たちにクイーンはいらないって言ったよね? 絶対にやらせないよ」
しーちゃん、ご機嫌悪い。
よっぽどクイーンが……ううん。私がやるのが嫌なのかな?
私みたいなお子ちゃまには、女王なんて称号、似合わないって思ってるのかな?
「え~何で? オレは芹七ちゃんが気に入った! 御幸だって知り合いみたいだし。この子がいい!」
「今の状況で彼女をクイーンなんかにしたら、僕も彼女も噂の的になる。これ以上、騒がれるのは迷惑なんだよ」
「相変わらず塩だな~。いくらこの子がお前の押しかけファンだからって、そんな冷たくすることなくね?」
すばる先輩が私の肩を抱きよせ、子供をなぐさめるみたいに頭をなでる。
しーちゃんのこめかみが、ピクッと引きつったような気がした。
まずい。ケンカになっちゃう!?
「あ、あの! し……紫己先輩、私ちゃんと責任もって引き受けますんで」
「はぁ? ちょっと勝手に……」
「はい、これで決まり~!」
すばる先輩がわざと勝ち誇ったように叫んだ。
「そんなにイヤならさ。クイーンからのキス、シキだけ回避すればいいじゃん?」
き……キス? えぇ!? どういうこと??
自分の耳を疑って、目をぱちぱちさせる。
しーちゃんは「だから言ったでしょ」とでも言いたげに、ジト目で睨み返してきた。
私は助けを求めるように、隣にいた御幸くんに視線をうつす。
「あ~、ごめん。セリちゃんに説明してなかったかも、クイーンからのご褒美ってやつ」
ご褒美……うん。初耳。
「メダルをかけてあげた後、イベントの勝者にキスをするのが、秀麗の伝統なんだ」
☆★☆
練習が終わり、つかった道具を体育倉庫に片づけにいく。
ストップウォッチとゼッケンは、あの箱にしまえばいいのかな?
背伸びをして頭上の棚を探っていると、後ろからスッとしーちゃんがあらわれて、何も言わずに箱を下ろしてくれた。
「しーちゃ……紫己先輩、ありがとうございます」
またいつもの癖で呼びそうになって、かしこまって言い直す。
でも気づいたら2人きり。
しーちゃんは箱を持った手に視線をおとしたまま、ぽつりと口を開いた。
「ねぇ、どうして僕があんなに止めたのに。安易に引きうけちゃうわけ?」
クイーンが決まったこと、しーちゃんはどうしても納得できないみたい。
みんなの前で勝利のキスをされるなんて、やっぱり恥ずかしのかなぁ。
「しーちゃんは私にキスされるの、そんなにイヤ?」
「そうじゃなくて。セリこそ……。知らない奴とするなんて、嫌じゃないの?」
「う~ん、ほっぺだし。他には、御幸くんとすばる先輩だけだし」
「あー、やっぱ何にも考えてない。もしA組が勝てなかったら、セリは初対面の男にキスすることになるんだよ?」
へ? しーちゃん達が負けるなんて頭になかった。だってキングだもん。
でも、そっか。他のチームが勝っちゃったら、その代表メンバーにキスすることになるんだ。
それはたしかに恥ずかしいし、相手の男の子だって困っちゃうかも。
「だ、大丈夫! ぜったいにA組が勝つに決まってるよ! ね?」
「去年の優勝はE組。イベントでは唯一、体育祭だけ3-Eに負けてるんだよ。あっちには運動部のエースが集まってるから」
「ひ~」
思わず、変な声がでてしまった。
そんな時、バタバタと誰かが走ってくる音がする。
「天海! こんなとこにいたのかよ!!」
倉庫のドアをばーんと叩いて、勢いよく駆けこんできた男の子。
こんなに乱暴な声を聞いたのは、この学園にきて初めて。……ちょっとびっくりしちゃった。
「てめー。さっきのリレー、最後かるく流してわざと負けただろ?」
しーちゃんに対して明らかな敵意を向けているのは、ジャージの色から見て3年生。
グリーンメッシュの髪に、気の強そうな猫みたいなつり目。健康的な小麦色の肌。
たぶんすごくカッコイイ人、なんだろうけど。
整った顔をしてるなぁとか、筋肉質な体形がステキだなぁって思うより前に。恐い! が先行して、ついビクビクしちゃう。
しーちゃんがさりげなく私を、自分の後ろに隠す。
「ただのコース取りで、なに言ってるの。勝つも負けるもないでしょ」
しーちゃんは冷静に返したけど、それがまた相手の癪にさわったみたい。
「ほんっと、お前のそういう余裕なとこムカつくな! 次はぜってー負けねえ! オレらE組が勝つ!」
うわっ。もしかしてこの怖い人が、3-Eのリーダーかな。
でもってA組の、因縁のライバルだったりするの?
「ったく。ちょっと顔が良くて背が高いからって、イキってんじゃねーぞ! A組はこれだから気に入らねーんだよ。いつも女子どもに囲まれてチャラチャラしやがって」
んん? 女子って……しーちゃんがモテるのが気に入らないの?
それって勝負うんぬん関係なく、ただの言いがかりじゃない。なんか、頭くるっ!
「悔しかったらあなたも、真似してみたらどうですか? 紫己先輩はぜんぜん、チャラチャラなんかしてませんけど」
黙っていられず、思わず身をのりだして文句を言ってしまった。
「あぁ? 誰だ、その女?」
やばい。
私を睨みつけながら、彼が一歩前に出る。
同時に、しーちゃんが再び私を背に隠した。
「黒崎、女の子相手にすごむなよ。こっちは片づけが残ってるから、気がすんだならもう行けって」
「……っ」
チッと舌打ちをして、怖い人はしぶしぶといった感じで踵を返す。
「体育祭、マジでやってやるからな。で、次はオレらがキングだ」
そう捨て台詞をはいて――。
「しーちゃん……今の先輩って……」
彼が立ち去って、私は恐る恐るたずねる。
「E組のリーダー、黒崎綾人。僕のことが気に食わないらしく、入学してからずっとあんな調子で突っかかって来るんだよ」
「あんな怖そうな人が秀麗にいるんだぁ。っていうか、あれ? E組って体育祭の優勝候補って言ってたような……」
「そう。連覇を狙って、みんな熱くなってる」
ってことは。クイーンの私は、あの人にキスするかもしれないの!?
「……あはは。どうしよう、しーちゃん」
「だから、ダメだって言ったのに。セリは次から次へと、頭痛の種をもってくるんだから」
しーちゃんがそう言って、頭を抱えたのは言うまでもない。
AからEまである5クラスを、学年を混ぜて縦割りにして、合計得点を競うんだって。
私たちはAチーム。カラーは赤。
リーダーはもちろん3年A組の3人。
しーちゃん、御幸くん、すばる先輩だ。
今日からさっそく、3年生を中心としたリレーや応援合戦の合同練習が始まった。
5時間目のグラウンド。
1、2年生は女子も男子もみんな、憧れの先輩たちと熱を共有できることにワクワクしている。
「体育祭の勝利に必要なのは、戦略と戦術と後方支援だ。3学年全員で力を合わていくぞ!」
団長の御幸くんがそう喝をいれると、大きな拍手と気合いの入った歓声がわきおこった。
「応援タップも忘れないでね! 今回のイベントもオレ達が『キング』の栄冠を手にするよ~」
すばる先輩がひらひら手を振ると、女の子達からは黄色い声があがる。
しーちゃんはっていうと……
特に何か目立つことを言うわけでもなく、2人の横で競技の指示を出したり、荷物を運んだり。
いつもと変わらないクールな表情で、自分の仕事を淡々とこなしている。
でも不思議と、誰よりも注目を集めてる気がするの。
キレイな顔、長い手足。そこに立っているだけでオーラがすごい。
知らず知らずのうちに視線が吸いとられると、不意に、しーちゃんと目が合った。
わわっ。見惚れてるのバレちゃった?
でもすぐに、あからさまに目を逸らされる。
いつもなら目を細めて、からかうように笑ってくれるのに。
ああ、そっか。これが他人のふり。
協力してくれるのはうれしいけど、やっぱり少し寂しいかもね。
☆★☆
「セリちゃん、聞いたよ。なんか面白いことになってるんだって?」
休憩中に1人でお水を飲んでいたら、御幸くんが声をかけてきてくれた。
「紫己とは他人でガチファンで?――って。ぷぷっ。あいつ、ここんとこずっと不機嫌なんだよ」
学校内で唯一、私としーちゃんの関係を知っている御幸くん。
この状況を遠くから見ていると、私たちの動きがおかしくてたまらないみたい。
「ごめんね。御幸くんまで、複雑な状況に巻きこんじゃって」
「俺は喜んで付き合うよ。だって何か興味深い。紫己のポーカーフェイスを、セリちゃんがどれだけ崩せるのか」
「あはっ」
マジメで優しそうに見えて、けっこうイイ性格してるんだよね。御幸くんって。
「あれ? 御幸と芹七ちゃんって知り合いなの?」
女の子に囲まれていたすばる先輩が、輪から抜けだして近づいてきた。
「小学校の時に塾が一緒だったんだ。久しぶりの再会ってやつ」
「へぇ~、じゃあシキともちょっとは、面識あったのか。な~る。だから転校してきちゃうほど、古参ファンなんだね」
すばる先輩が妙に納得したカオでうなずく。
私と御幸くんはこっそり目を合わせて、思わず口元をゆるませた。
「あ、じゃあさ! これも何かの縁だし、今回の『クイーン』は芹七ちゃんに頼めば?」
ポンッと手を叩き、すばる先輩が笑顔を見せる。
クイーン? そういえば御幸くんも、初日にそんなこと言ってたな。
たしか優勝チームにメダルをかける役の、女の子のことだよね?
「ああ。俺もそう考えたんだけど」
「でしょ? こんだけ可愛いし、一途で行動力あるし。編入試験をパスしたってことは頭もいいんでしょ? うってつけじゃん!」
「まあ、セリちゃんなら。他の生徒も納得するんだろうけど。しかし……」
「しかし?」
「紫己がな……」
御幸くんが言い淀むと、すばる先輩が表情を歪ませて大げさにため息をつく。
「どうせシキは今回も、オレ達にクイーンなんて必要ないとか言うんでしょ。あ~もう、そんなのつまんないよ! せっかくキングに権利があるのに、イベントの華を誰も選ばないなんてさ」
「俺もそうは言ったんだけど」
御幸くんは眉をよせて苦笑い。しーちゃんとすばる先輩の板挟みになって困っている。
どうやら『クイーン』は栄誉ある役で、前回のイベントの勝者によって推薦されるみたい。
何でしーちゃんが嫌がるのかは、分からないけど……。
「私でいいんなら、やりますよ?」
そんな重要な役、務まるのか不安だけど。
みんなの為に何かできることがあるなら、お手伝いしたいって思った。
「やったね~!! じゃあ、今回の体育祭のクイーンは、芹七ちゃんで決まり!」
「ダメだ」
しーちゃんが背後から現れて、すばる先輩の頭をグイッと上から押しつける。
「何を騒いでるかと思えば。僕たちにクイーンはいらないって言ったよね? 絶対にやらせないよ」
しーちゃん、ご機嫌悪い。
よっぽどクイーンが……ううん。私がやるのが嫌なのかな?
私みたいなお子ちゃまには、女王なんて称号、似合わないって思ってるのかな?
「え~何で? オレは芹七ちゃんが気に入った! 御幸だって知り合いみたいだし。この子がいい!」
「今の状況で彼女をクイーンなんかにしたら、僕も彼女も噂の的になる。これ以上、騒がれるのは迷惑なんだよ」
「相変わらず塩だな~。いくらこの子がお前の押しかけファンだからって、そんな冷たくすることなくね?」
すばる先輩が私の肩を抱きよせ、子供をなぐさめるみたいに頭をなでる。
しーちゃんのこめかみが、ピクッと引きつったような気がした。
まずい。ケンカになっちゃう!?
「あ、あの! し……紫己先輩、私ちゃんと責任もって引き受けますんで」
「はぁ? ちょっと勝手に……」
「はい、これで決まり~!」
すばる先輩がわざと勝ち誇ったように叫んだ。
「そんなにイヤならさ。クイーンからのキス、シキだけ回避すればいいじゃん?」
き……キス? えぇ!? どういうこと??
自分の耳を疑って、目をぱちぱちさせる。
しーちゃんは「だから言ったでしょ」とでも言いたげに、ジト目で睨み返してきた。
私は助けを求めるように、隣にいた御幸くんに視線をうつす。
「あ~、ごめん。セリちゃんに説明してなかったかも、クイーンからのご褒美ってやつ」
ご褒美……うん。初耳。
「メダルをかけてあげた後、イベントの勝者にキスをするのが、秀麗の伝統なんだ」
☆★☆
練習が終わり、つかった道具を体育倉庫に片づけにいく。
ストップウォッチとゼッケンは、あの箱にしまえばいいのかな?
背伸びをして頭上の棚を探っていると、後ろからスッとしーちゃんがあらわれて、何も言わずに箱を下ろしてくれた。
「しーちゃ……紫己先輩、ありがとうございます」
またいつもの癖で呼びそうになって、かしこまって言い直す。
でも気づいたら2人きり。
しーちゃんは箱を持った手に視線をおとしたまま、ぽつりと口を開いた。
「ねぇ、どうして僕があんなに止めたのに。安易に引きうけちゃうわけ?」
クイーンが決まったこと、しーちゃんはどうしても納得できないみたい。
みんなの前で勝利のキスをされるなんて、やっぱり恥ずかしのかなぁ。
「しーちゃんは私にキスされるの、そんなにイヤ?」
「そうじゃなくて。セリこそ……。知らない奴とするなんて、嫌じゃないの?」
「う~ん、ほっぺだし。他には、御幸くんとすばる先輩だけだし」
「あー、やっぱ何にも考えてない。もしA組が勝てなかったら、セリは初対面の男にキスすることになるんだよ?」
へ? しーちゃん達が負けるなんて頭になかった。だってキングだもん。
でも、そっか。他のチームが勝っちゃったら、その代表メンバーにキスすることになるんだ。
それはたしかに恥ずかしいし、相手の男の子だって困っちゃうかも。
「だ、大丈夫! ぜったいにA組が勝つに決まってるよ! ね?」
「去年の優勝はE組。イベントでは唯一、体育祭だけ3-Eに負けてるんだよ。あっちには運動部のエースが集まってるから」
「ひ~」
思わず、変な声がでてしまった。
そんな時、バタバタと誰かが走ってくる音がする。
「天海! こんなとこにいたのかよ!!」
倉庫のドアをばーんと叩いて、勢いよく駆けこんできた男の子。
こんなに乱暴な声を聞いたのは、この学園にきて初めて。……ちょっとびっくりしちゃった。
「てめー。さっきのリレー、最後かるく流してわざと負けただろ?」
しーちゃんに対して明らかな敵意を向けているのは、ジャージの色から見て3年生。
グリーンメッシュの髪に、気の強そうな猫みたいなつり目。健康的な小麦色の肌。
たぶんすごくカッコイイ人、なんだろうけど。
整った顔をしてるなぁとか、筋肉質な体形がステキだなぁって思うより前に。恐い! が先行して、ついビクビクしちゃう。
しーちゃんがさりげなく私を、自分の後ろに隠す。
「ただのコース取りで、なに言ってるの。勝つも負けるもないでしょ」
しーちゃんは冷静に返したけど、それがまた相手の癪にさわったみたい。
「ほんっと、お前のそういう余裕なとこムカつくな! 次はぜってー負けねえ! オレらE組が勝つ!」
うわっ。もしかしてこの怖い人が、3-Eのリーダーかな。
でもってA組の、因縁のライバルだったりするの?
「ったく。ちょっと顔が良くて背が高いからって、イキってんじゃねーぞ! A組はこれだから気に入らねーんだよ。いつも女子どもに囲まれてチャラチャラしやがって」
んん? 女子って……しーちゃんがモテるのが気に入らないの?
それって勝負うんぬん関係なく、ただの言いがかりじゃない。なんか、頭くるっ!
「悔しかったらあなたも、真似してみたらどうですか? 紫己先輩はぜんぜん、チャラチャラなんかしてませんけど」
黙っていられず、思わず身をのりだして文句を言ってしまった。
「あぁ? 誰だ、その女?」
やばい。
私を睨みつけながら、彼が一歩前に出る。
同時に、しーちゃんが再び私を背に隠した。
「黒崎、女の子相手にすごむなよ。こっちは片づけが残ってるから、気がすんだならもう行けって」
「……っ」
チッと舌打ちをして、怖い人はしぶしぶといった感じで踵を返す。
「体育祭、マジでやってやるからな。で、次はオレらがキングだ」
そう捨て台詞をはいて――。
「しーちゃん……今の先輩って……」
彼が立ち去って、私は恐る恐るたずねる。
「E組のリーダー、黒崎綾人。僕のことが気に食わないらしく、入学してからずっとあんな調子で突っかかって来るんだよ」
「あんな怖そうな人が秀麗にいるんだぁ。っていうか、あれ? E組って体育祭の優勝候補って言ってたような……」
「そう。連覇を狙って、みんな熱くなってる」
ってことは。クイーンの私は、あの人にキスするかもしれないの!?
「……あはは。どうしよう、しーちゃん」
「だから、ダメだって言ったのに。セリは次から次へと、頭痛の種をもってくるんだから」
しーちゃんがそう言って、頭を抱えたのは言うまでもない。