初恋シンドローム

 大和くんの方はひと目見ただけで分かったみたいだったのに。申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

 彼に思いを()せると、決まってあの一場面が蘇っては脳裏(のうり)をちらついた。
 春に包まれながら結婚の約束を交わした、幼いわたしたち。

 だけど────。

(……あれ?)

 いまになって気がついた。
 逆にそれ以外の思い出が曖昧(あいまい)だ。というか、そもそも蘇ってこない。

「どうして……」

 肌の上を砂粒が滑ってざらついたような、妙な感覚に包まれた。

 小さかったから忘れているだけ?
 そう考え、ふともうひとりの幼なじみである悠真のことがよぎる。

 彼とも小学校からの付き合いだけれど、その当時の思い出はほとんどない。

 だけど、それは当たり前といえば当たり前だ。
 彼と親しくなったのは中学校に上がってからのことだった。それからのことはよく覚えている。

(でも、何で大和くんのことは────)

 ほとんど何も覚えていないのだろう?

 勘違いでもうぬぼれでもなく、彼はいまでもわたしに強い好意を抱いてくれているようだった。

 わたしも大和くんのことは好きだった。大好きだったはずだ。
 この10年近く、片時も忘れられないほど。

 なのに、いまひとつ気持ちが盛り上がらないで戸惑ってしまうばかりだ。
 それは再会の喜びより、驚愕や衝撃が(まさ)っているからだと思っていた。

 けれど、ちがうのかもしれない。
 現にこうして冷静になると、さらに戸惑いが大きくなった。

 わたしの中で初恋の記憶と大和くんとの思い出は、何より特別なものだった。
 いつかまた会えたら、と切に願ってきた。

 彼がいまも変わっていないのなら、きっとまたしても惹かれてしまうだろうと思っていた。

(それなのに……)

 この言い知れない胸騒ぎは何なのだろう。
 お陰で気持ちが揺らいでも、傾きはしない。

(もやもやする)

 煙みたいな(もや)が胸の内を掠めてせめぎ合う。

『俺、この子以外に興味ないから』

 ひたむきな大和くんの想いに応えたいのに────。
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